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ノンフィクション大魔王 第12回 |
2004.10.15 |
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荻窪〜吉祥寺3500万円以下の家探しpart7 |
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| 建築費1000万円台の工務店探し |
土地は決まった。あとは工務店だ。設計士が決まっている場合は、その設計士が仕事をよくしている工務店にするという方法がある。しかし、友人の設計士は店舗デザインや、リフォームを主にやってきており、一戸建てを設計するのは初めてなので、適当な工務店のあてがない。それでも彼女に頼もうと思ったのは、日本じゅうのどんな設計士より、彼女のほうが私という人間を知っているからだ。家族のことも、仕事のことも、予算のことも、そして片づけが苦手なことも。見ず知らずの設計士に一から理解してもらうよりだんぜん話が早い。彼女の家に対する考え方や生活センスに共感するものも大きかった。
施主が工務店を探して悪いわけがない。まずは、インターネットで「ローコスト住宅」「1000万円台の家づくり」といった項目でアクセスしてみる。設計事務所や工務店のサイトが山ほど出てくる。目ぼしい感じのサイトの内容を見てみると、地方の設計事務所や工務店が多い。
「1000万円台で家をつくろう」という主旨のサイトで都内に事務所のあるものがあった。無駄を省いた予算で建てるためのノウハウを提供しており、これから家を建てる予定のある人には、設計士や工務店を紹介するシステムもあるという。どこに、いつ、どんな家をどのくらいの予算で建てるのかを書き込んで送信すれば会員になれるというので、こちらのデータを書き込む。こういうサイトに書き入れるデータは細かくて、ちょっとミスをするとエラーになり、へたするともう一度最初から打ち込むことになる。十五分くらいかかってやっと全部データを入れて、最後に予算の項目に「1200万円」と入れる。送信。するとエラーになった。モニターには赤い文字でこう書かれていた。
「予算が現実的ではありません。もう一度予算を書いてください」
現実的でないって、アンタ、1000万円台で家を建てるっていうサイトじゃないの!? 杉並区で土地が30坪で、そこに延べ床面積30坪の木造二階建てを、1200万円で建てるのが現実的じゃないっていうの?!
そのサイトを通じて施工された家が写真入りで紹介されていた。建築費は、安くて1700万円くらいから、高いものは2000万円を超えていた。
そもそも、1200万円の予算の根拠は、「ローコスト住宅にチャレンジ!! 700万円台で注文住宅を建てた」(浜口賢治著)と「500万で家をつくろうと思った」(鈴木隆之・藤井誠二著)という二冊の本を読んだからだ。「ローコスト住宅…」は西多摩に家族四人が住む家を、「500万…」は23区内にひとり暮らしの家を建てる話だ。500万の家のほうは、ひとり住まいなので狭い。さらに、ほとんどがボランティアとセルフビルドで大工などの人件費を削って実現した価格だ。一方、700万円の家のほうは、普通に住める家を700万で建てている。写真入りで紹介されている家を700万出して建てたいかと聞かれると、やはり安っぽいという気がする。センスはともかく、まともな家がこのくらいの予算でも建つのだということはわかり、希望が持てる。西多摩で700万なら、杉並区なら1000万から1200万出せば、けっこうセンスのいい家が建ってもいいじゃないか、と考えたわけである。
表紙に「1000万円台の家」と書いてある建築雑誌も何冊か買ってみた。実際の建築費はほとんどが1000万円台後半だ。たまに1200万円くらいのものも含まれるが、よく読むと施主が壁を塗ったり床を張ったりしている。
家を建てる人向けの雑誌やムックをかなり読んだが、どれもカタログぽくて役に立たない。「極小住宅」(ワールドフォトプレス)というムックは、全国のおしゃれな極小住宅が紹介されている。実際の狭さを感じさせない設計になっているものが多いし、写真も実際より広く見えるようにうまく撮ってある。それぞれの家のセンスもいい。しかし、極小住宅と言っておいて、敷地面積が30坪あって、延べ床面積が三階建てとはいえ40坪近くあるのって、充分広いじゃん! 10坪足らずに敷地に延べ床面積20坪足らずの家というのも混じっているが、数を揃えるために極小どころか広々住宅も入れてしまっているのはどうかと思う。もっとよくないのは、建築費が紹介されていない点だ。一冊1524円も出して(part2があるので二冊買ってしまった)、これじゃあ、まるで参考にならない。体裁のいい、極小住宅もやりますという設計家のPR雑誌だ。この手の雑誌から工務店を探せるかと思ったが無理だった。
かれこれ2週間、インターネットで「1000万円台」をキーワードに検索するうちにいい感じの工務店が見つかった。1000万円台の家をつくろうと結成された設計士グループのサイトで、そこの手がけた家を施工している工務店のなかに、中野区の工務店の名前がちょくちょく登場していた。施工例を見ると、なかなかセンスのいい家で建築費も1500万円前後となっている。中野区なら杉並区に近い。とりあえず電話してみた。
「杉並区に土地を買うのが決まっていて、現在更地で30坪で、階段を四、五段下った変型の土地に木造二階建てを建てる予定なんですが。それで予算が…、1000万円くらいなんですけど」
電話の向こうのオバサンの声が言った。
「どんなご予算でもご相談にのらせていただきます」
天使の声に聞こえた。ほんとうは1200万円の予算だが、最初にそう言うともっと高くなりそうだから1000万円と言ったのに、驚かないことに驚いた。「現実的な予算じゃない」と突き放すサイトもあるというのに。さっそく見積もりを取るために打ち合わせに行った。
中野新橋の駅から徒歩5分。自社ビルというのも頼もしい。60代の社長と30代の息子が専務をしている。棟梁をしていた社長の父親が創業したということで、その時代の半纏が飾ってある。一緒に行った設計士も「よく見つけたね。すごくいい感じの工務店じゃない」と喜んでいた。もう一つ設計士が見つけた建築会社にも見積もりを依頼することにした。
川崎市多摩区にあるその会社は、地元を中心に営業している。坪単価や細かい仕様まですべてシステマチックに決められており、コスト計算が透明な上に、高断熱高機密の家づくりに定評がある。予算的にもかなり良心的だ。床やドア、その他の仕様も種類豊富ななかから予算に応じて選べる。ただ、この工務店に頼むなら、オーソドックスな設計の家にしないと低コストにならない。
土地が決まって、設計士が出してきたプランは二つ。A案は、四角いシンプルな作りの家で、二階はリビングと二つの子ども部屋があり、一階に夫婦の寝室と夫のオーディオルーム、私の仕事部屋も狭いが確保されている。B案は、三角形と変型の長方形をくっつけたような形で、二階のリビングは三角形になっている。子ども部屋は広めのワンルームであとで区切れるようにする、私の仕事部屋は一階の夫婦の寝室とワンルームで、家具で仕切るようになっている。
どんなに散らかしても文句を言われない孤立した仕事部屋が欲しい私にはA案のほうが便利だ。しかし、夫は個性的なB案がゼッタイにいいいという。だいたいが土地からして変型なのだ。そこにオーソドックスな家を建ててどうする! という気もする。多少不便だとしても、おもしろい家に住みたい。
私たちはB案を採用した。ということは、多摩区の会社には頼めないということだ。もしも、多摩区周辺のオーソドックスな正方形や長方形の土地に、コンサバな家を建てる人がいたら、この会社はおすすめだ。
中野区の工務店の出してきた見積りは、概算で約1400万円だった。200万円オーバーだ。家だけの建築費なので、家具はもちろん、外回りのたとえば門扉や庭の造りなどは含まれていない。ひとつひとつの仕様や工事の内訳を見ると、単価が細かく設定されていて良心的な見積もりなのがわかる。
銀行ローンは3000万円。手持ち資金は1000万円で合計4000万円。3500万円の家探しは、4000万円の家づくりへ否応なしに変わってしまった。土地代が2500万円。残りの1500万円で家を建てて、住めるようにして、引っ越して、諸経費を払わなくてはならない。もっとくわしく内容を詰めていく課程で削れる部分もあるだろうが、前途多難なのは、長井秀和ではないが間違いない。
★つづく |
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